(補足)とかつけているわりに過去の記事に同タイトルのものがない!
というのはその通りで、ここの記事についての補足ではない。何についての補足かと言うと、ふと見かけた以下の記事について。

ヘルドクターくられの「陰謀論デマ屋の用意している罠」の話
https://www.cl20.jp/portal/fake-sc-trap/

科学系YoutuberやDr.Stoneの監修としても有名なくられ氏の記事であり、基本的にリテラシーの高い人で陰謀論に引っかかるような人ではないと自分も理解している。だからこのように陰謀論についての解説をされているのだと思うのだけど、危うい内容がいくらか見受けられたので、自己満足のためにちょっと勝手ながら・失礼ながら一部を抜粋して補足をしておく。ちなみに記事下部で宣伝されている動画の方は見ていないので、ここで補足するようなことはそっちで語られているかもしれない。

・”このような、陰謀めいた考えにハマる人の典型的なパターンというものがあります。それはまず、基本的に不勉強である、ということです。”
あくまで典型的なパターンの一つであるので、「自分は不勉強ではないから当てはまらないな」と思う人がいると危ない。残念ながら、専門領域で十分に勉強している人や十分なリテラシーを身につけた人もよく陰謀論(デマ)にひっかかる。
陰謀論に引っかかる主な要因はこの部分の後に続く「プライドが高い人」(プライドだけ高い人と書かれているが、ちょっと語弊があるので書き換えた)であり、知識の多寡は大して関係がない。
「不勉強だから陰謀論にハマる」は真実ではないが、「陰謀論にハマったから不勉強だ」とは主張できる。要するに結果論をひっくり返しただけで、あまり意味がないということだ。
ちなみに、プライドが高い人というのも語弊があり、実際にはプライドを傷つけられている人とか、承認欲求が満たされていない人、社会的に虐げられている人、被害者意識のある人などが含まれる。

・”先のプライドだけの不勉強な人が立派なカモとして成長すると、彼らが投資(実際は欺され搾取)されるシステムが用意されていて搾り取られるようになります。”
不勉強云々はすでに補足したので置いておくが、そのような搾取するシステムが必ず存在するわけではない。陰謀論はしばしば(例えば自らを慰めるために)自然発生するので、それを後から利用する人間は多いが、初期は搾取構造がない場合も多い。
そもそも、必ずしも直接的に金銭という形で搾取するわけではない。最終的には金銭につながるとしても、例えばデマを鵜吞みにしたことをSNSでぽつりとつぶやくだけでも、大いに発信力を利用されていると言える。デマが広がること自体が利益につながるからだ。それも必ずしも金銭的利益ではないかもしれない。
何にせよ、陰謀論は必ずしも直接的にお布施を求めるわけではなく、あたかも無欲な聖人君子のようにふるまうことも多い。
ここで述べられている陰謀論の搾取構造は極めて限定的である(詐欺・犯罪的なものに限られている)ので、「自分は金をとられてないから大丈夫」などのように考えると間違いが起こる。そもそもタイトルに「陰謀論デマ屋の用意している罠」とあるので、陰謀論にかかる一般論ではないのかもしれないけれど。
このような記述は、実はそれ自体陰謀論的であるとも言える。ただし、「必ずシステムが用意されている」とまでは言っていないので、グレーといったところか。

・”「ちょっと怪しくない?」「この情報大丈夫?」って思うことが大事。それが自分の大好きな人であろうとも、すごい肩書きの先生であろうとも、ひとまず1つの意見として留めておくわけです。その上で、多くの意見を「自分のものさし」で判断して信じるモノを決めないといかんのです。”
陰謀論を普段から警戒している人ならすぐにわかると思うが、このくられ氏の文章が役に立つ人は陰謀論耐性が比較的低いと思うので、重要な補足をしておく。
このような考え方・対処方法は、確かに重要な「陰謀論に引っかからないための方法」ではあるが、同時にそのまま「陰謀論に引っかかる典型的なパターン」である。続く以下の文章と合わせてちょっと長めに補足する。

・”この「自分のものさし」こそ、中学校レベルの基礎教養です。”
陰謀論に引っかからないために教養は確かに極めて重要ではあるのだけれど、中学校レベルの基礎教養を持っていても普通に陰謀論には引っかかる。
そもそも現実に、自分を含めて、中学校レベルの基礎教養を十分に保持していない人は多い。というか、全員そうだといっても過言ではない。中学校レベルの基礎教養と言うのは、実はかなり膨大である。
だいいち中学校レベルの基礎教養と言うのが、中学校の授業で学ぶ範囲のことなのか、それともその他の(15歳まで生きていれば授業以外で誰かしらから教えられるはずの)一般常識まで含むのかが不明瞭だ。
なのでそもそも前提が無茶であり、この言説の本質は「陰謀論に引っかかっていない」→「基礎教養を備えている」という理屈でしかなくて、可逆的ではない。そして前述したとおり、このような理屈にさしたる意味はない。

それを置いても、最初に書いたとおり、仮に十分な(いわゆる)中学校レベルの基礎教養を備えているとしても、陰謀論には引っかかる。あえて冷静に検討してみてほしいのだけど、例えば今プーチンがウクライナ侵攻を行っているけれども、実は今プーチンは認知症で判断力が欠けてしまい、側近の操り人形状態であり、実はその側近たちは事前に西側勢力と取引を行い、ロシアの国力を削るために明らかに違法で不合理な非人道的侵攻を行っているのだ……。という私の今思いついた適当な出まかせを、中学校レベルの基礎教養で却下・もしくは保留できるだろうか。例えが悪いかもしれないけれど、断言できる人は多くないと思う。
この出まかせに対する最低限の対処は、「実は今プーチンは認知症」まで聞いた時点で無視することだ(それが半年後に真実だったと判明しても、今の時点ではそれが適切)。それができないものさしなど陰謀論の対処にはさして効果を発揮しない。「いや、陰謀まで達していないじゃないか。側近の操り人形とか西側勢力と取引とかまで聞けば自分のものさしでも怪しいとわかる」と思うかもしれないが、認知症まで「そうかもしれない」と受け入れた時点で既に相手の土俵に乗せられている。肯定的に話を聞く準備ができているのだ。後は自分のプライドをくすぐるような内容が来れば、果たして正しくものさしを扱えるものかどうか。
くられ氏の後の文章に”「俺、ジャニーズのOOだけど・・・」って間違いメールのふりをして3万通送ると、5人くらいはマジで信じてひっかかる”という記述がある。この例ではこの部分だけで無視できるのが2万9995人いて、それが「最低限のリテラシー」であるとくられ氏も述べている。これも同じタイプの例えだけれど、これを防ぐ基礎教養というのは中学校で教えられるものだろうか。

しかし、くられ氏が挙げている例は陰謀論と言うよりも科学的デマに類するものが多いように思われる。地球平面説、5G、ガン、新型コロナ、水素水…。しかし実際は、中学校レベルの科学的基礎教養がある人々でも普通に騙されている。特に健康食品等のたぐいである。私はくられ氏ほど科学の専門家ではないが、これでも生物・化学系の専攻で修士号を取ったので、それを見破るのがどれくらい難しいか、どれほど多くの人が騙されているかはわかる。
水素水を信じる人を馬鹿にできるレベルの人は実はそう多くない。中学校レベルの基礎教養で水素水を信用せずに済むなら、同レベルの他の事象も疑えて然るべきなのだけど、実際はほとんどの人がそうではない。
水素水を疑えた人は、自分がなぜ水素水をはじめに疑えたのか振り返ってみることをお勧めする。もちろん結果的に行きついたところは正しいのだけれど、ひょっとして、根拠のないことを疑ったからではなく、根拠のない(自分で確認できない)ことを信用したからではないだろうか。

そんなことを言い出したら何も信用できなくなると思うかもしれない。実際信用する価値のある情報なんて世の中にほとんどないというのは置いておいて、結局何を疑って何を信用するかを選択する指針というのが、何回も書かれている「ものさし」である。それは誰かからそのまま与えられるのではなく自分で作っていくものであり、生き方そのものである。ものさしを持つことは生きる上で必要であり、だからこそ一切騙されないことは難しい。
はっきり言って、「騙されたくない」と思う気持ちが冒頭書かれたプライドの高さそのものである。「騙されない自分」に愛着を持つのはやめた方がいい。生きていくうえでそんなことは土台無理なのだ。騙されたくないなら社会を離れ独り隠遁するしかない。
騙されないための自分だけのものさし、そこを陰謀論は狙ってくる。
だからこそ、くられ氏の文章に補足しておきたいと思った。あの文章を読む人のほとんどは騙されないようになるために読んでいるはずだからだ。まあ、その人たちはこんなとこに来ないだろうし、来たところで読まないと思うけど。

ただ、陰謀論に引っかかりにくくする方法というのはある。有名な陰謀論について学ぶことだ。古今東西の陰謀論をかき集めて調べてみると、おおむねパターンというか、陰謀論がまとう空気感がわかってくる(そしてそれは、くられ氏の文章にあるようなものに限らないことがわかるだろう)。
注意点として、「これが陰謀論とされていることが陰謀である」という考えはやめておいた方がよい。有名な陰謀論は、(当然主張も間違っているが、そこよりも)陰謀論的な手法が極めてわかりやすく用いられていることが重視されている。「これは本当のことなのに陰謀論とされているのはおかしい」と考えるのは正直止められないと思うのだけど、何よりも論の手法が問題であるというのも頭に入れておいてほしい。

・”世の中には一発逆転も、誰も知らない真実がそのへんに落ちていることもないのです。”
なくはない。
クリシェと化している過言だけれども、過言であることに本質があるように思う。
要するにものさしとはこういうものである。