数分間のエールを、を観た。
7月3日、立川シネマシティにて。極上音響上映。

直前までこんな映画があることすら知らなかったのだけど、前日にアンパンマンを観に行った際、シアター内にサイン入り看板が飾られているのを観て、気になったので鑑賞。
ネタバレ薄めでダラダラと思ったことを書く。一応観る前に読んでも大事なとこ全部ネタバレされてるとかにはならないと思う。

観終わって、面白かった……と自信を持って言えない。いや、つまらなくはなかったのだけど。まあでも、多分面白かったかな。うん、面白かった。

主線の少ない2Dルックな3Dアニメとして、映像には独特の質感がある。初見だとちょっと違和感を感じるかもしれないが、映像だけでも楽しめる。聞けばblenderで作ったらしいので、そういう意味で新鮮味もある。
まあ、主人公の彼方のキャラデザ(顔)が好きじゃなかったけれど、夕先生の顔が良かったのでトントン。
音楽も後で触れるけど邪魔にならず、挿入歌は物語にも合ってて良い。

ただ、それ以外がどうも……というか具体的にはお話がちょっと……没入できないというか、冷めてしまうというか。
自分ではほとんどないことなのだけど、上映中にダルくなって時間を確認してしまった。

どんな映画だったのかというと、まあ悪い言い方をしてしまうと、露骨なクリエイター賛美作品といった感じ。
この作品にピッタリの感想がしばらく思いつかなかったのだけど、一時間かけた専門学校のCMみたいな感じだ。独特の映像の質感もあいまって、よりそんな感じ。

全体的にクリエイター讃歌を作るぞという強い意志を感じて、それがセリフや筋書きに表れている。のだけど、意志が強すぎて、セリフは口数が多く説明的なところと上辺を撫でるようなふんわりした感じになっているところがあるし、ストーリーも類型的なところがあり、展開から先に考えてキャラクターを役割に押し込めたような強引さを感じる。

セリフの一例を挙げると、「作ったもので人の心を動かしたい」というようなことを何回も口にするのだけど、人の心を動かすということが具体的にどういうイメージなのか、なぜ人の心を動かしたいのか、というのをしっかり提示してもらえてないからか、ふんわりした空虚なセリフに感じる。セリフだけが先行していて、そこからキャラクターの内面・イメージをつかみ取れない。公式あらすじでもタイトルっぽく使われているあたり、おそらく「作ったもので人の心を動かしたい」というのは今作のパンチラインの一つなんだろうと思うけれど、パンチラインだからといって機械的に入れてしまってる気がする。
自分もクリエイター賛美に傾倒した時期があるから思うのだけど、「作ったもので人の心を動かしたい」というのは一番格好がつく創作動機ではあるので、クリエイター賛美の作品でそれを使いたい気持ちはわかる。でも実際はシンプルな承認欲求とか、具体的な目標とか衝動があるもので、単に「人の心を動かしたい」というのは実際は何も言っていないに等しい。もしそう言いたいのであれば、上述したように、どう動かしたいのかなぜ動かしたいのかを明確にしておかないと、単なるカッコつけになってしまう。

そういうぼんやりふんわりしたセリフがある一方で、説明的なモノローグが細かく挿入されていて、セリフで伝えるぞという意気込みがすごい。こういうモノローグの使い方、CMとかでよくある。テレビから目を離しても内容がわかるやつ。

ストーリー展開も、まあ見え見えなので書いてしまうけど、中盤で彼方が挫折してしまう展開がある。それ自体はありふれたものだからいいのだけど、挫折する原因がにわかに信じがたいものとなっており、挫折させるという展開のために無理矢理キャラクターを動かした感が否めない。まあこれは彼方をMV作家にした時点でちょっと無理があったのかもしれないけど。
夕先生はとにかくストーリーの都合で不可解な行動を終始とり続けており、教師設定からしてかなり無理があると思うのだけど、ひょっとして学校で「あっあんたはあの時の!」展開をしたかったがために無理矢理教師にさせられたんじゃないか。知らんけど。

また、クリエイターを賛美するのは別にかまわないのだけど、作中の制作描写がどうも地に足がついていない感じがする。
MVは高校生が一人で短期間で二作並行して作るには無理のあるクオリティに見えるし、制作風景も特殊な空間でSFチックな操作パネルを使いサクサクと制作する比喩的演出がある。通常の制作風景ももちろんあるけれど、これといって印象に残らなかった。
全体的な印象として、MVにしろ歌にしろ、創作の泥臭いプロセスをすっ飛ばして結果だけを提示して「モノづくり」と言っているように見える。
泥臭い部分が描かれるのは外崎のスケッチブックくらいで、今作の「モノづくり」で唯一説得力のある動きをしているのが脇役の外崎、それもそんなに掘り下げて描かれない。

モノづくりという言葉が頻出するけれど、映像・音楽・絵画の分野で創作行為をモノづくりという言い方はあまりしないんじゃないか。知らんけど。(作っている人達は当然その分野の人たちなので本当にそう言うのだろうか……)
なので作中「モノづくりの世界で」というセリフが重要なシーンで言われるのだけど、そんな言い回しする!?という驚きだけが来て感動も何もなかった。
自分は分野が全く異なるのでわからないが、モノづくりなんてワード、メーカー向け就活の時にしか使った記憶がない。

モノづくりを続けるにしろ諦めるにしろ、作中全編に漂うモノづくりへのあまりにも無邪気な信頼が、モノづくりに携わっている人の視点と言うより、これからモノづくりを志す人の憧れの視線に近いと思った。映画を作っている人達は前者のはずなのに不思議だ。

ライブの際の描写についていくつかちょっと違和感があって(あんな通路長いの見たことないってのは誇張演出なので置いといて)。
例えば、外崎が夕先生をトリの前座扱いだと言うのだけど、ああいうブッキングでOAと特に書いてない限り、前座扱いだと思ってる人は普通いないと思う。そりゃアンコールはトリの出演者にかかるけどさ。まあ外崎はライブ来たことないような雰囲気だった気もするから、そういう認識でも不自然じゃないか。
ライブ中の客についても、夕先生の出番であれだけの密度で人がいるということはそこそこ人気があって固定ファンもついているはず。画面外でアホほどヘドバンかジャンプしてるようなファンが一人くらいついててもおかしくない。なんか劇中では箸にも棒にもかからなかったみたいな扱いなのでギャップを感じた。映画の中では人気の指標として主にYouTubeの再生回数やコメントが映されていたけれど、YouTubeの再生回数だけじゃなくて目の前の人を見よう。目標とモチベによるけどさ。(まあその辺はっきりしないから夕先生が音楽やめるも続けるもふんわりしてるんだけど)
どうでもいいけど100曲も作ったならライブでやれる曲だけでもレパートリーかなりありそうだし、ファンから音源化を待望されていそう。

モノづくり賛美の作品ということで、音楽についても触れておくと、音楽は挿入歌以外特に印象に残らなかった。別に悪いことではない。作品に溶け込んでいたということで、邪魔するより100倍マシだ(邪魔だったルックバックを思い出しながら)。
挿入歌はどれも良かった。記憶が確かなら「未明」以外に2曲流れたと思うのだけど、もうちょっとしっかり聞かせて欲しかった。サブスクで聴き直してみているのだけど、「ナイト・アンド・ダーク」なんてイントロしか流れなかった気がする。あれ、「ナイト・アンド・ダーク」じゃなくて「ある呪文」の方か?ていうか「未明」以外に4曲もあるじゃん。記憶力……。
挿入歌の中だと「ある呪文」がちょっと昔のポップ感があって一番好きかも。「アイデンティ」とかめっちゃボカロP感ある。いや夕先生の挿入歌担当のVIVIさんはボカロPだから当たり前だけど……。
ただ、歌自体はいい歌だと思うのだけど、こう言ったらあれなんだけど、劇中で地道にライブとかしてて売れないのも納得してしまう感じの作風だった。というかこういうジャンルの歌が跳ねるためにはどこでファンを集めたらいいのかわからない。昔はこういうジャンルは下積み時代がよく見えないままいきなりメジャーデビューとかしてたようなぼんやりした印象。今時はボカロかなんかで作って音源をMV付きでネットにアップするのが王道な気がする。そういう意味で、映画のストーリーにはかなり合っていると思う。(歌と関係ないけど、やたらセンチメンタルなライブMCもなんか売れなさそうという感じがしてしまった)
ちなみに夕先生はアップされたライブ映像が伸びないのを気にしていたふうな描写があるけれど、ライブ映像はね……伸びないぞ……。この作品のそういうとこはしっくり腹に落ちる。

エンドロールのフレデリックの主題歌は、作品に雰囲気がよく合っていたと思う。
まあ、そこは夕先生の歌で統一するべきだろ、特にエンドロールは、という意見も多分ありそうだしよくわかる。
ただ、別にこれで悪いとは思わない。この作品の鑑賞後の余韻にはこれはこれで合っていると思う。まあ、夕先生の歌だった方がベストだとは自分も思うけど……。

まあ色々書いたけど、なんだかんだ楽しめたということで一旦星三つ。
★★★☆☆