簡単語りのつもりで7月下旬に途中まで書いていたものだけど全然手が付けられなかったのでとりあえずアップしておく。

シン・仮面ライダーが7月21日からAmazonプライムにて配信開始されたのをうけ、なぜかその日の夜に仮面ライダーBLACK SUN(以下ブラックサン)を視聴した。
そもそもブラックサン自体に興味があったのと、なんとなくシン・仮面ライダーと対比になるような気がしていたので。というか率直な話をすると、シン・仮面ライダーを誉めそやす人がブラックサンを引き合いに出してけなすのを以前にしばしば見かけていたので、なるほどシン・仮面ライダーを好きになる人はブラックサンを嫌いになりがちなのかという印象を持っていたため。まあ、単に少ないサンプル数の一部を全体に当てはめてしまう誤謬の典型ではある気がするのだけど、ただそこから、どうやらこの二作は対比になりそうだぞという推測を立てたわけだ。
あとやっぱり、自分の中ではシン・仮面ライダーはとてつもない駄作ということで決着がついており、それ以下となるとどれだけひどい作品なんだろうという興味もあった。西島秀俊を主演に使って。

結果から言えば、結構……というかかなり楽しめた。本当は二日に分けて観るつもりだったのだけど、ついつい夜中の3時までかけてイッキ見してしまった。

冒頭から、光太郎が怪人にされた謎、光太郎たちが運営した怪人権利運動団体ゴルゴムの顛末、現代の勢力図にどのようにして至ったのか、創世王とは何か、などという謎が小出しにされ徐々に明らかになっていくのが観ていて楽しい。謎のつかみがいいのでそこから終盤までずっと引っ張りこまれる。
メインの現代ストーリーでも、良くも悪くも予想外の展開が結構あって、暴力や胸糞要素にもとくに抑えがなく、何が起こるかわからないため先が読めない。
この、先の展開への期待と不安が入り混じりながらも引っ張っていかれる感じが、ドラマ形式をよく活かしているなと思う。とても楽しかった。

音楽も印象的で、どうやらミームになっているらしいのだけど、そのくらい耳に残るし劇中での使われ方も効果的だと感じた。

アクションもグロ描写を含む暴力的なもので見応えがあった。子供向け仮面ライダーでは見られない描写には新鮮味と迫力を感じた(まあ、過去にも大人向けライダー作品はあったので、そうした作品を鑑賞済みの人からすればあまり真新しさはなかったかもしれないが)。
仮面ライダーにつきもののバイクシーンも十分に見せてくれてかっこいい。
全体的な印象としてはあまりCGを使っていないように見えて、それ故かけっこうテレビ特撮っぽいちゃちさも感じた。主に怪人の造形の部分だ。2020年代になってもまだこれかと思ったのは否定できないが、今の特撮の中でブラックサンが特別安っぽいわけでもなかろうというのもわかる。特にブラックサンは怪人が生物的な造形をしているので、人工物っぽくしてちゃちさを誤魔化す方法があまり取れないのもあったろう。
アクションの面では特殊効果が少なめなのは泥臭さが出て良かったと思う。

また、後述するけれど、作り手の現代社会に対する問題意識が反映されていて時代性のある作品になっているのも良かった。どんな創作も時代性を含むものなので、そこを強調した作品はその時代の手がかりとしてわかりやすく価値がある。
この点を低く評価する人も多いようだけれど、これのどこがどういう評価を受けるかも含めて時代性を帯びていると言える。

以下ネタバレあり。実写版CASSHERNの内容にも触れる。

全体的な印象としては実写版CASSHERNに近い印象を受けた。全体的に暗いストーリーと雰囲気。あちらでは新造人間と差別・戦争、こちらでは怪人と差別(こちらもラストでは日本が非戦を止め戦争への道を歩むことが示唆される)。そして昭和の時代に怪人を作る人体実験の様子は、独特の和風スチームパンク世界で新造細胞を作り新造人間を生み出すCASSHERNでの描写に通じるものがある。今作ではシャドームーンが怪人武力闘争組織を作るが、新造人間のブライにも似ている。
怪人とは何なのか?創世王とは?という秘密が明かされていくのも、最終的に新造人間の秘密に至るCASSHERNのストーリーに通じるものがある。
CASSHERNの細かいストーリーやテーマ性はもう忘れてしまったのだけど、どこまでいっても争い差別するのは人間同士だというところは共通している気がする。CASSHERNではそもそも人間の民族差別がストーリーの起点になっているが、ブラックサンの井垣は「差別が存在するのは人間同士だけ」、怪人は人間ではないから差別ではない(当然この時点で不当)と言ってのけるけれど、怪人はそもそも創世王からして人間に作られた人間起源の人間であったという事実が判明するのだ(そしてラストでは怪人差別とは別に、移民排除デモかなにかも起こっているし)。
ついでに新造人間も怪人も結果として主人公の父たちによって作られたという共通項もある。
とまあ、似ている点を無理やり挙げてみたのだけれど、やはり大きく違うのは世界観。これにまたも無理やり意味を見出すなら、CASSHERNの頃はまだ戦争も差別も日本人にとってファンタジー的な存在だったのが、ブラックサンでは現代が舞台になってなおリアリティを持ち得るほどに身近になってきたということかもしれない。

一度見ただけだとどうしても印象深いのはラスト近辺になるが、その中でも信彦が50年前を懐かしみながら死んで行ったのが印象的だった。
思えば信彦は捕らえられてから今まで独房に監禁されており、ある意味では時間が止まっていたと言えるのかもしれない。その上で作品を振り返ってみると、作中脱走してからの信彦の闘争は50年前の青春の再演を求めているように思えてくる。ゆかりもオリバーも失われ同志は変わり果て、今や何一つ青春の残り香は残っていないのに、それを受け入れられずに虚しい抵抗を繰り広げる男に思える。その本心が漏れ出たのが最後の一言だとすると、なんというか、こういうキャラ、オレ、スキ!となってしまう。観ている最中はそこまで信彦にグッときてはいなかったのに、最後の一言でひっくり返されてしまうのはしてやられたという感じだ。

あとこれも終盤になるけれど、葵の「負けた人から何を受け継ぐの?」に対して光太郎が「敗北の……意味だ」って言ったところカッコイイしわかりやすく深くて気持ちいい〜ってなった。端的な言葉で作品のテーマ的なところ(つまりこの作品は負ける作品なのだ)にサッと触れて示す。
ここまででなくともこの作品はけっこう印象的なパンチラインがあり、セリフの力が強い。「よくも葵を怪人に……許さん!」なんかは言い方や話の流れも相まってとても印象に残り、ブラックサンといえば「許さん」くらいの扱いになっていると思う。

ただ、「人間も怪人も命の重さは地球以上〜」の合言葉は正直言って野暮ったい。こういうなんとも言えないフレーズは仮面ライダー作品にはわりとある印象で(平成2期を数作しか見てないけれど)、おそらく子供向け特撮作品の特徴なんだろうと思う。子供にもテーマがわかりやすい説明的なフレーズという意味で。でもこの作品子供向けじゃないよな……。
命は平等に重いというのも、この作品は人間も怪人も等しく命がポンポン飛んでいくのでやや虚しさのある響きだ。まあ、むしろだからこそ野暮ったいだけのフレーズにならずに済んでいるのかもしれない。物語が進むにつれてその虚しさが言葉に厚みを持たせてくる。

差別の話。実際のところ昔も今も色んな差別は存在し続けているのだけれど、昔と現代では表れ方が変化してきているように思う。それがブラックサンにも反映されていると感じた。
ブラックサンで初っ端ある意味びっくりしたのはコテコテのステレオタイプで露悪的な差別描写で、15年前にこれをやっていたら「なにこれ古臭くて陳腐だなあ」と思うところだ。そんな露骨な差別をする人は(少なくとも大っぴらに目に入るところでは)なかなかいなかった。
自分自身、15〜10年前に差別について強く考えることがあったのだけど、その頃の認識では直球の憎悪は(まああったけど)そこまで大きなものとは感じていなかった。それよりも問題意識として、現代における差別というのは仕事や出世、結婚、資格取得等の機会が奪われているとか、そんな社会の差別構造に基づいて貧富の差がついて固定化されているとか、配慮のない非バリアフリーな社会とか、そんないわゆる構造的な差別が主だと思っていた。
ところがとくにここ数年は、主にネット上で直球憎悪タイプの差別がめちゃくちゃ表に出てる印象で、公然と差別を肯定したり暴力的な言葉を投げつけたり憎悪と恐怖をむやみに煽ったりなど、かなり目に余る惨状になっている。それは必ずしも恐怖や差別知識に基づくものではなく、弱者(など)がガス抜きとして更なる弱者を攻撃するという娯楽的なものも膨らんできているように思う。その有り様はネットと現実の舞台の違いこそあれ、ブラックサンの差別描写と密接に通じるものがある。

つまり、ブラックサンのコテコテの古臭くすら見える差別描写が、現代になってむしろリアリティが復活してしまっているという状況。そうした時代性が反映されているという点で、個人的にはすごく価値のある作品だなと思う。
この作品の差別描写には主に黒人差別や在日韓国人差別を見て取れる。暴力的で被差別対象を直接加害する描写はしばしば起こる黒人射殺事件を思い起こさせる。また、ジョージ・フロイド殺害事件などはそのまま引用されている(ここまでストレートだと引用と表現してしまっていいだろう)。井垣率いる過激で娯楽性を帯びた差別デモの雰囲気は日本での在日韓国人等への差別デモとそのまま重なる。ホームレスや独居老人、LGBTQは生産性がないと見なされ怪人かヘヴンの材料にされてしまうが、この「生産性がない」という口実も昨今のヘイトで連発される理屈だ。また、ホームレスやLGBTQはもちろん、最近強まってきた老人ヘイトも取り込んでいるのが現代的だ。ラストでは移民受け入れ反対デモも描写され、やはり難民の受け入れすら渋る今の日本社会の一面を反映している。
とりあえず節操なく思いつくだけヘイトを寄せ集めてみたという感じにすら見えるヘイト博覧会状態の作品になっているが、これらいずれも現実社会で現在進行形で深刻化しつつある問題だと考えると、作品が時代に寄せているというよりもはや時代が作品に寄ってきているという印象すら持つ。一昔前は現在進行形ながらも未来は良くなっていくという希望があったが、最近はいくらでも後退し得るというのが見えてきた。直近で言えば(リベラル層においてすら)トランスジェンダーへの憎悪・恐怖感情が劇的に増してきている(それは政治家や保守系メディアによって煽られている面が大きい)し、某アニメでは女性の同性婚描写に否定的な論争が巻き起こるなど、LGBTQ権利獲得へのバックラッシュみたいなものが起こっている。
こうしたものが仮面ライダー作品として出てくるのは誰も思っていなかったと思うが、今の時代に出てくるべくして出てきた作品の一つだと思う。