今日はよく百合という単語を見た。もちろん花のことではなくて、女の子同士のアレだ。

百合という単語そのものが話題になるときはだいたい女同士の友情を百合と呼ぶことについての意見が飛び交っており、今日もそのたぐいだった。女が一緒にいるだけでなんでもかんでも百合と呼ぶなというような話だ。

百合はもともと薔薇族(ゲイ)の対義語として作られたという話もあるように、もともとは女性の同性愛、レズビアンを指す言葉だと思われる。であれば、そこには性愛・恋愛の感情が必ず介在する。

その前提を持った上で百合オタクの人々を眺めると、単なる女同士の友情にしか見えない(つまり性愛・恋愛が見て取れない)ものをも百合と呼んだり、なんなら友情があるかどうかもあやしいものまで百合と呼んでいるケースが多いことに気がつくだろう。

そのようなケースを見て真っ先に連想するのがBLだと思う。腐女子はよく、単なる男同士の友情に性愛を持ち込むと言われており、BLと呼ばれる作品は必ず男性同性愛が含まれている。ボーイズ・ラブの略なのだから当然だ。腐女子にかかればなんの変哲もないスポーツ漫画の友情も恋愛関係、肉体関係にたやすく発展し、二次創作BL作品が作られる。原作の友達同士の他愛ないやり取りについて、紛れもなく恋愛関係を描いたものだと強弁する人もいる(らしい。見たことはない)。

そうした流れで考えると、百合についての前述のケースも、他愛ない(恋愛感情のない)女同士の関係性を恋愛関係だと強引に解釈する試み・主張なように思われる。これに不快感を示す人が多く、冒頭書いたようになんでもかんでも百合と呼ぶなみたいな話が出てくる。

しかし実態を見ると、そもそも女同士の(性愛の介在しない)友情自体を百合と呼んでいるケースが多く、好意的でない関係性を百合と呼んでいるケースさえある。BLであればそれは必ず恋愛関係や肉体関係に発展するが、百合はそうではない。
人によって百合の概念の範囲が異なり、同性愛に限る人もいれば、ただの遊び友達まで含める人もおり、同性愛をむしろ含めない人もいる。人間関係に関わらず、キャラクターが女性しか登場しない作品を百合作品とジャンルづけする人もいる。このように百合イコール女性同性愛ではなくなったためか、特に女性の同性愛を扱う場合はGLと呼びわける動きもある。

こうした用語の拡張として似た流れにNTRがある。元々は寝取られだったのが、何をきっかけにしたかNTRと略され、次第に寝取りが相当数含まれるようになった。寝取られと寝取りでは主体が真逆なので、寝取られ好きが憤る姿をしばしば目にする。
寝取りでなくとも、既存の恋愛関係が成立していないものは、いかに好きな相手を取られようともNTRではないという主張もある。なんとなく意識していた幼馴染が知らない間に別の男と付き合っていた、なんてのはただの失恋にすぎないじゃないか、ということで、たしかに頷ける(これはただの友情は百合ではないという主張にも似ている)。
こうした声に応えて分離のためBSS(僕が先に好きだったのに)というジャンル名が使われたこともあったが、今はとんと見かけなくなり、やはりNTRにおさまったままだ。

結局のところ、寝取られも寝取りもBSSも、基本の構成要素自体は共通しているために同じ言葉でくくられるようになったのだと思う。好意的な関係とそれを奪う第三の男(あるいは女)。寝取られジャンルが持っていた細かい要件の肉付けが、一見してそれとわからないNTRという言葉になり多くの人の目に触れる中でどんどん薄れていき、骨組みだけが残されたということだろう。とはいえ依然として寝取られのイメージは強く、寝取りだと思ってNTR作品を見たら寝取られだったから文句を言うということは、個人的には見たことがない。

百合についても似たようなことが言えると思う。現状、百合という用語について間違いなくコンセンサスが取れているのは、女同士の関係性、という骨組みだけだ。そしてその中で未だ百合イコール同性愛というイメージを強く持つ人も多いために、なんでも恋愛につなげるな(つなげてない)というようなちぐはぐな喧嘩が起きたりしている。
逆に百合に同性愛は邪魔だからGLと完全に分けてほしいという人もいて、それはそれで乗っ取りみたいになっている。

この男版である薔薇はなぜこうならず未だにイコール同性愛なのか?といえば、そもそも認知度の問題があるだろう。腐女子界隈でどれほど薔薇と呼ばれているか知らないが、BLの定着具合を見るにおそらくほとんど使われていないのではないか。使う人の少ない言葉は死語となり変容しない。オタクの多くは百合という二文字を出されれば即座に花と女性の二つを連想し、薔薇という二文字を見てもなかなか男性を連想はしないと思う。

同性の関係性といえば最近は男同士の(恋愛ではない)ホモソーシャルな関係性としてブロマンスが日本にも導入されているけれど、あまり使われていない印象がある。たぶん語感が良くないのと、Brother+Romanceという語源が察しやすい分直観的にややこしいんだと思う。なんならブロマンスは(というかホモソーシャル自体)同性愛を包含しかねない気さえする。ブロマンスは同性愛者を排除しないとは思うけれど、あえて同性愛者を除くなら、その関係性は異性愛者による同性愛とも言えるのでは。そう考えると、ブロマンスこそ男版の百合概念に近いのかもしれない(広げるベクトルが逆だけど)。ただブロマンスはいくら概念が拡大しても敵対関係には適用されない気もする。
ちなみにブロマンスの女版でウーマンスとかロマンシスとかもあるらしいけれど、やっぱり語感が良くなくどうしてもRomanceの印象が強い。恋愛ではないのになぜRomanceを入れるんだろう。
個人的にはブロマンスという言葉は語感も語源も性的ニュアンスを強く感じすぎてどうも好きではない(ホモと似たニュアンスを感じる)ので、友情に重きを置くならバディとかのほうが使いやすい。

ここまで書いて、友情そのものがなぜジャンル名(友情モノとか)として存在しないのかとふと思ったのだけど、あまりにもありふれた通常の人間関係と見なされているからかもしれない。恋愛は恋愛モノとかラブストーリーとかあるのにね。でも友情を前面に出して評したいことは多くて、だから何か属性を付加して特別な友情にしたくなるのかもしれない。

自分は人間に対して恋愛感情を持ったことが今のところないので、恋愛を友情やその他感情の延長線でしか考えられないところがある。そのためこうした種類の話は根本的に視点がズレているかもしれない。個人的には友情の延長線上のカップルとかもとても素敵だと思うし、恋愛感情もその後別の種類の情に変わっていくらしいので、あまり好意的感情を細かく分類分けしなくてもいいのではないかと思っている。

なんにしても、根本的にはジャンル問題であり、何事もジャンルの話は単に個々人の線引きや閾値などが違うというだけのものなので、あまり真剣に考えても損をするとは思うのだけど。

ちなみに好きな百合はスイプリのひびかなです。この百合は恋愛感情を含む百合でしょうか。正解は…………