鶏胸肉が好き。というか嫌いじゃない。

私が肉に対して持つ印象は、基本的に苦手とか嫌いとか生理的に気持ち悪いというのがスタートラインにある。思想的なところは全然なく単なる偏食なのだけど、結果的にベジタリアンとかヴィーガンとかに近い食嗜好になっている。モスバーガーなんかでも好んでソイパティを頼む。めちゃくちゃに加工され均質化されているからだ。粗挽きよりも細挽きが好き。そういうことだ。

話がずれまくったけれど、そんな私でも比較的好む肉がある。その一つが鶏胸肉だ。

私は子供の頃から肉の大半が苦手だったけれども、鶏のささみを焼いたか炒めたかしたものは好きだった。噛み切りにくい筋や皮、気持ち悪い脂身といったものがなく淡白な食感。大人になって鶏肉について少し調べてみると、ささみと胸肉が極めて近いことに気づいた。その時まで私は鶏胸肉を食べたことがないような気がしていたが、実は知らず知らずのうちに好んで食べていた。

ケンタッキーなどのフライドチキンを眺めると、胸肉が全然見当たらないことに気付く。私は知らなかったのだけど、どうも胸肉は「固くてパサパサする」と言われ不評らしかった。そうしたこともあり、子供の頃の私はフライドチキンを食べる度に肉質が好みでなく失望していた。特に骨付きチキンが嫌だった。骨の周りの肉質はなんというかヌルヌルして特に苦手だった。たまに骨無しのチキンがあり、それは好きだった。今思えばそれが胸肉であり、当時はこのフライドチキンの好き嫌いは骨のせいだと思っていたが、部位によって肉質が異なることに思い至っていなかった。

しかしある時、ケンタッキーが新商品を発売する。クリスピーチキンである。骨無し確定チキンの登場だ。私は喜んで、ケンタッキーといえばそればかりを食べるようになった。間もなく、クリスピーチキンと野菜とソースをトルティーヤで包んだツイスターが発売し、私はケンタッキーに行くと決まってそれを頼むようになった。2002〜2003年頃、ペッパーマヨの他に中国風のドラゴンツイスターと、名称を忘れたが韓国風ツイスターが期間限定で販売され、私は韓国風ツイスターが好みでよく食べていたことを覚えている。コチュジャンツイスターとかだったか……?ドラゴンツイスターはあれから復刻したこともあるが、韓国風ツイスターが復刻したのは見かけていない。

また話がそれた。というわけで私はクリスピーチキンを好んで食べていたのだけど、実はそこまで美味しいとは思っていなかった。私は異常に偏食だったため、「嫌いでない(食べられる)」食べ物が非常に少なく、「心置きなく(安心して)食べられる」イコール美味しい・好きという価値観だった。要するに食べ物とそれ以外みたいな感覚である。特に肉は肉質によるバラツキがひどく、「安心して食べられる肉」は貴重だったのだ。なのでほとんどミンチしか食べなかった。ミンチは均質化されているからだ。

その点、クリスピーチキンは確かに安心して食べられるが、単品で食べるにはちょっと衣の味が淡白で美味しくなかった。ツイスターはその不満に合致したのだ。しかし本当は、普通の濃い味付けに薄い衣のフライドチキンを、クリスピーチキンの肉質で食べたかった。

ということを、最近ファミマのクリスピーチキンが売れているらしいと聞いて、ふと思い出した。コンビニチキンもすっかり定番化したものだ。鶏肉の肉質が気になりだしたのはコンビニチキンのおかげでもある。エルチキだのファミチキだの、骨無しのフライドチキンなのになんか肉質が変だと思うことがよくあった。始まった当初は肉質が不評だったが、私には普通の人の好みは分からない。ただ、例えば10年と少し前くらいのエルチキは、もも肉の細かい切れ端を無理やり詰めたような感じだった気がする。

現在のコンビニチキンは多分かなり質が良くなっているとは思う。繰り返すように私には普通の人の好みは分からないが、肉の切れ端ではなく肉塊が使われているなというのはわかる。しかし胸肉はほとんど使われていない。期間限定品みたいな感じで、エルチキ塩レモン味(むね肉)とか書いてあるようなのがたまに出ていたくらいだ。最近だと、ななから(むね)というのがセブンイレブンで売られていたが、すぐに消えた。世間では鶏肉といえばもも肉なのだ。

最近は、胸肉はサラダチキンとして再注目されたのが記憶に新しい。ヘルシーな健康食品という位置付けだ。健康食品というのは、裏を返せば「健康という付加価値がないと売れない」と思われているものでもある。YouTubeの料理動画を見渡せば、「固い鶏胸肉を柔らかく」する手法を紹介する動画が山ほどある。

鶏胸肉が固いというのが私には全く分からない。むしろ押し並べて噛み切りやすく食べやすい。グニグニして全く噛み切れないゴムのような肉や脂身、ああいうのこそ固い肉と言うんではないかと思うのだけど、不思議とああいうものは受け入れられていたりする。よくわからない。鶏胸肉にはそんなバラツキは一切ない。

鶏胸肉は未だに不当に低い評価を受けているように思えてならない。彼はもっと多くのメインのステージに立てる素材のはずだ。とまでは言わないが、胸肉がもっと当たり前に提供されるようになれば(例えばコンビニのホットスナック棚に常駐するようになれば)、私の食生活はもうちょっと豊かになるなあと思うのだった。自炊?うん……その話はやめよっか。