NOPEを今更ながら見たのでネタバレ感想。

事前に言っておくけれども、ネタバレ厳禁系の映画なので、観るつもりが少しでもあるならネタバレを見ないことをおすすめ。
あと予告動画もポスターもパンフレットも見ない方がいい。
怖めの映画なのでそこだけおさえといて。血もあります。

ネタバレクッションも兼ねて、まずはストーリー本筋と直接関係ないところから語ると、やはりジョーダン・ピールのホラー的な演出や見せ方というのが非常に恐怖感を揺さぶってくる。ゲット・アウトの時から、ただの日常的なシーンにさえ不穏さや不自然さを忍ばせるのが非常にうまい。
それに加えて、主演のダニエル・カルーアの演技とジョーダン・ピールの演出がとにかく相性が良い。目力がすごい。
ゲット・アウトはダニエル・カルーアでなければあそこまで怖くなかっただろうと思う。恐怖を感じている演技をさせて右に出る人はいないんじゃなかろうか。ダニエル・カルーアが目を充血させているだけでその場の恐怖が見ているこちらまで伝染してくる。

実際のところ、一切何の前情報も仕入れずに見に行ったので、まず見る前はジャンルすらわからなかった。
ただ少なくとも愉快な映画ではなかろうと覚悟していた。ジョーダン・ピールだから。
あと、馬の目がドアップになっているポスターだけは観たので、愉快な映画ならそんなポスターにはするまいという予想もあった。

IMAXで観た方がいいと小耳にはさんだので、グランドシネマサンシャイン池袋のIMAXレーザーGTにて鑑賞。
IMAXフィルムカメラで撮影された映像はアスペクト比が1.43:1となるのだけれど、これをフルサイズで(上下カットせずに)上映できるのは東京だとグランドシネマサンシャイン池袋のIMAXレーザーGTしかない。
もともとはフルサイズだから迫力があっていいとか、カットされなくてよかったとかいう意味で「IMAXで観た方がいい」なのかもしれない。
あるいは、そう言った人はフルサイズのIMAXでなくその辺の普通の映画館のIMAXで観て言ったのかもしれない。
ただ、自分は上述のアスペクト比を備えたスクリーンでこの映画を見ることができてよかったと思っている。

というわけでそろそろネタバレ感想に入るのだけど、自分の中でこの映画の感想を咀嚼するのが思いのほか難しかったので、箇条書きのような感じでまとめていく。

・ストーリー
OJたちがUFOと悪戦苦闘する主軸と、特に説明なく挿入されるチンパンジーの副軸がある。
チンパンジーの方はあくまでも回想のため最後まで明確な説明がなされない。隣の客も「チンパンジーの意味がよくわからない」と言っていた。
チンパンジーについては後述する。
UFOの正体がモンスターだとはっきりするまでは主軸もホラー調の雰囲気があり、チンパンジーのシークエンスは特に淡々とした気味の悪さがある。
モンスターだとわかったあとはモンスターパニック映画の雰囲気になり、
さらにOJたちが一度逃げ延びた後にリベンジ撮影を決めてからは、モンスターとの一騎打ちのような手に汗握る熱い映画になってくる。

・見世物
聖書の引用で露骨に提示されているのだけど、見世物というワードがこの映画で大きな意味を持つ。
チンパンジーと馬は調教された見世物である。
元子役のジュープは過去出演し惨劇の起こったホームドラマについて展示室を作っている。
OJの妹エメラルドは衆目を浴びるスターになりたい夢を持っているが、それも見世物である。
主人公のOJたちはUFO映像という見世物を撮るために行動を始める。
ジュープは自らマイクを持って、浮遊生物に馬を食わせるショーを行っている。
そのチラシが糞の下に置かれている(というか上から糞を落とされたんだろう)。私はあなたに汚らわしいものを投げつけ……。
おおむね、見世物というものは、生き物をコンテンツとして消費する行為と解釈して問題ないだろうと思う。
つまりこの映画では、生物・個人の尊厳と、現代のコンテンツ消費行為がストーリーに練り込まれていると思われる。

・調教
主人公のOJは馬の調教師である。
冒頭ではあまり良いところがなく、安全講習もうまくできないし、結果あわや大事故という事態も起こしてしまう。
馬を撮影現場で扱うことに慣れていないのか、父の死後、経営難のため馬を何頭も売却している。
妹のエメラルドも子供の頃、Gジャンという馬を調教するはずだったのだが、諸々の事情でエメラルドは調教の機会を逸する。
映画の後半、OJは浮遊生物にGジャンという名前を付ける(以下浮遊生物をGジャンと記載する)。
自分への目線に反応するGジャンを、OJとエメラルドが連携してうまく誘導し、最終的にはエメラルドが一手に引き受けて目論見を成功させる。
また、Gジャンについては、ジュープが調教してショーに利用していたと言えなくもない。

・見る、見られる、目を合わせる
劇中非常に頻繁に言及される行為。見世物との関連と思われる。
頻繁に言及される割にあんまり覚えていない。とりあえず以下のような感じ。
(1)安全講習の際、馬と目を合わせるなとOJが忠告する。
(2)Gジャンを見るとGジャンに見返され(目が合って)捕食される。(深淵を覗くとき~)
(3)エメラルドのことを父はあまり見ていなかったが、OJは妹のことをしっかりと見ていた。
(4)エメラルドが電話をかけた際、ホルストは様々な動物の目の映像を見ている。
(5)この映画を見る(後述)
なお、凝視は時に加害的行為とされることがあるので、人をあんまりじろじろ見ない方がよい。

・ホームドラマ「ゴーディ 家に帰る」
このドラマ関連のシーンは、特に説明なく惨劇シーンが挿入される以外はジュープが展示室を作っているだけなので、漫然と見ていると意味がよくわからない。
チンパンジーを使ったホームドラマであり、チンパンジーは時計を読めないなど、どちらかというと揶揄的なギャグがある。
ゴーディ役のチンパンジーのうち一匹が、撮影中、風船の破裂音をきっかけに暴走し、複数人を殺傷する事件があった。
その惨劇の様子を子役のジュープはテーブルの下で隠れて眺めていた。
(現場の中で、不自然につま先で立って静止しているシューズがある)⇒最悪の奇跡?
ジュープがチンパンジーに見つかり、互いに拳を合わせて「E.T.」みたいなことをしようとする寸前でチンパンジーは射殺される。
(1)ジュープがチンパンジーに攻撃されなかった理由は?有色人種(モンキー)だから?見世物だから?
(2)E.T.のパロディだとすれば異星人とのコンタクトだが、その後Gジャンをショーに利用したことと関連はある?
(3)見世物の生物が暴走し惨事を起こしたという点で、後にGジャンがショーの中でジュープ達を捕食したことと重なる。
(4)ゴーディ役のチンパンジー≒Gジャン?
少なくとも現在のジュープはこの事件に強く影響されていることが、展示室や、ショーに共演者(初恋の人)を招待したことからもわかる。
共演者を嬲るチンパンジーと馬を捕食するGジャンを重ねたところもあったのか。
単にこの事件以降うだつの上がらない人生だったところにGジャンを発見して使い道を見出したのか。
たしか劇中では、契約したのでは?みたいなことをOJだか誰かが言っていたような気がするが、そんな上等なものではない気がする。

・ジュープ
時代的に当時のアジア系子役となるとどういう扱いなのかわからないのだけど、
なんにしても上記の衝撃的体験で何もかもが変わってしまったのだと思う。
展示室まで作って事件を大事に(不自然なシューズまで)保管し見世物にしている。
背景が複雑で非常にミステリアスなキャラに思えるけれど、
でも結局はGジャンで一発当てたいだけなのか?Gジャンに何か奇跡的な救いを見出しているのか?
わからないけれども、結局はゴーディの時と同じ轍を踏んだことになる。

・名前
章立てが名前になっているほか、作中には名前の残らなかった黒人騎手の話が出てくる。
ゴーディ役のチンパンジーは章立てでもゴーディとしか出てこない。
GジャンはGジャンと名前をつけられてから、怪奇現象でなくただの動物として見られ始めた。
あとは、UFOの呼称をUAPに変えたことにエンジェルが言及し、名前を変えれば忘れてもらえると言う(ここで昨今の統一教会問題を連想した)。
名前の取り扱いについて、おそらく映画の中ではなにか意図があるんだろうけれど、読み取り切れなかった。
章立てが名前になっているうち、クローバーだけピンとこなかったけれど、あれも馬の名前だったんだろうか。記憶が既に抜けている。

・四角
映画の冒頭、換気口の中のようなところで、正方形に近い四角の中にクレジットが表示される。
(たしかそのまま徐々に四角に近づいていき、クレジット終了後は動く馬の映像が四角の中に映し出される)
その後、この換気口の中のようなところが、Gジャンの口内として(Gジャンの口が四角)描写される。
終盤にGジャンは形態変化をするが、その際、緑色の四角い目?口?を捕食対象へ向ける(おそらく目)。
(1)これらの正方形に近い四角形から、IMAXフルサイズのアスペクト比を連想した。
(2)IMAXフルサイズスクリーンをGジャンの目と仮定すると、今、観客はGジャンと見つめ合っている(つまり捕食対象)?
(3)あるいは画面越しに映画作品として消費しようとする観客の目線をGジャンが象徴している?

・Gジャン
めちゃくちゃ目立つ見世物としても描かれているがモンスターとしても描かれている。
コンテンツにはなるが、誰も本質的にはGジャンを束縛することはできない。
チンパンジーであれば人の制御を受けなくなるのは抑圧からの解放、尊厳の問題ともとらえられるのだけれど、
Gジャンはそもそも束縛されていない(ジュープがなんとなく操作していただけっぽい)ので、
どちらかというと現代の資本主義下における短絡的消費者としての側面の方が強いように思われる。
ゴミを大量投棄するシーンが二回ほどあるし。短絡的な消費行動のためにOJたちにいいように誘導される。
少なくともこいつは生産しないだろう。多分。

・変なヘルメットの記者
ヘルメットが全面反射という露骨に相手を映す鏡系のデザイン。
リベンジ決意後のヘイウッド兄妹の成長を示すだけの役割といったらそれまでだけど、
事故り方は面白かった。

・ホルスト
こういう独自のこだわりで命を投げやる職業仙人みたいなキャラいるよね。
照明がどうこうというのは意味が分からなかったけれど、まあやる気は伝わった。
照明ってマジでなんだったんだ?
形態変化の手がかりか、それかマジでそのままの意味なのか。

・エンジェル
変わり者だらけの中の癒しキャラ。
決戦前の「俺たちのやることに意味はあるんだよな?」みたいなセリフが好き。
あんまうまくいかない心に穴の空いた人生の中で、この時だけかけがえのない仲間と居場所を得た気分になってがんばっている、という印象を受ける。
この後彼には何も残らない気がするけど、死線を共にしたヘイウッド兄妹との友情でどうにかチャラになってほしい。
でもこれからずっと思い出話にできるなら悪くないかも。たった三人の生き残りだし。

・ヘイウッド兄妹
最終的にエメラルドがめちゃくちゃ活躍すると思わなかった。
最後はめちゃくちゃ感情移入して、なめんなコノヤローやってやったぜ!みたいな勝利感情や、
ちゃんと見ててくれたOJ兄ちゃんとか、さっさと来やがったマスコミへのがっかりうんざり感とか、
でも手元には自分が撮ってみせた一枚の写真がある満足感とか、なかなか後味よく終わらせてくれました。

・ジュープの子供たち
こえーんだよお前ら
古き良きUMA感があって良かったわ

・オマージュ
この映画はたまによくある「映画の映画」(映画というエンタメ自体を媒体なり業界なり含めてテーマの一つとして取り上げている映画)だと思われるので、
AKIRAのあれは笑っちゃったけど、その他にもたくさん映画のオマージュが入っていると思う。
映画知識ないから汲み取れなかっただけで。
映画マニアは気づくところ多いんやろな~と思う。