クソ映画と噂のキャシャーン実写版(以下CASSHERN)をアマプラでレンタルして観た。
結論から言うと普通にそこそこ面白かった。好きかと言われるとそこまで好きではないけど、よくできた映画だと思う。少なくともクソ映画と呼ばれるには値しないと自分は思う。

なぜ観たのかというと、それはシン・仮面ライダーの評判に一定数「CASSHERNに似ている」「CASSHERNを予習するべき」「アクションシーンの多くがCASSHERNに通じる」というものがあったから。シン・仮面ライダーが絶望的に刺さらなかった自分としては、どうにかしてシン・仮面ライダーに与えられた精神的な傷跡を処理する必要があり、グダグダとシン・仮面ライダーへの愚痴を並べるよりは似た映画と相対化して痛みを和らげる方向で解決しようと思ったのだった。

シン・仮面ライダーと比べるために見たので比べて語ってしまうが、圧倒的にCASSHERNの方がクオリティが高い。もうおよそ20年前の映画だけれども。
ストーリー(脚本)、VFX、演技、アクションシーン、撮影、世界観、テーマ性、どれをとってもCASSHERNの方は普通に映像作品として成立していて、比較にならない。当時としてあのレベルのVFXは(邦画として)どうなのかというのはわからないのだけど、少なくともシン・仮面ライダーと並べて語れる作品ではない。

あと、シン・仮面ライダーとCASSHERNのアクションシーンが似ているかという点については、そもそもCASSHERNのアクションシーンがそこまで特殊には感じなかった。超人的なアクションをやろうとすればああいう感じになるだろう。当時としては表現方法として新しかったかもしれないけれど、今見て珍しいものではない(TV特撮でも使われるような表現方法になっている)。クオリティもシン・仮面ライダーよりCASSHERNの方が断然高い。見栄えもよく粗が少ないし、動きやカットの連続性がしっかりしている。
特に似ているとして挙げられるシン・仮面ライダーのハチオーグ戦についても、その違和感のあるクオリティは置いておいて、そう特別なものにも感じない。残像感のあるスピードバトルで光の残像を残して表現するのは視覚的に面白かったけれど、そのような特徴はCASSHERNにはなかったと思う。おそらくCASSHERNを挙げている人はサグレー戦とブライ&ロボット戦、特にサグレー戦を想定しているのだと思うのだけど。
繰り返すように今となってはCASSHERNのアクション表現に目新しさはさほどないのだけど、これほどCASSHERNが挙げられるということは、当時としては斬新で人々の心に残ったのかもしれず、老人がゲーム機のことをいつまでもファミコン、スマホのことをいつまでもiPhoneと呼ぶことがあるのと似たような、先駆者効果なのかもしれない。
個人的には、20年前の作品と考えれば、アクションシーンもVFXも邦画としては斬新でよくできていたのではないかと思う。

古い作品なので特にネタバレもクソもないのだけど一応以下ネタバレ濃いめ。

冒頭の時点で、スチームパンクな世界観ががっちり固まっていることに驚かされる。邦画のスチームパンクで言えば直近だとえんとつ町のプペルがハイクオリティなCGアニメで存在する。さすがにCASSHERNのCGクオリティは現代基準では低いと言わざるを得ないが、世界観の美術的な作り込みでは負けていない。クオリティも、当時として見ればけっこう高いと言えるのではないか。

ストーリーは陰鬱で抽象的だけれど、テーマ性のようなものははっきりと打ち出されている。
生命、死、戦争、延命、差別といったキーワードが散りばめられて、生きることへの執着が戦いや死を招く倒錯した悲劇の中で、それでも生きることは希望をもった営みでもあるというようなメッセージ性が打ち出されているような気がする。そして希望(生)は次代へ託して受け継がれていくものだというのが、ラストで明かされる稲妻の設定にあると思われる。つまり、稲妻によって新造人間が命を与えられていくのは、稲妻が異星からやってきた生のエネルギーを持っているからということで説明がつく。

ストーリーの構成もけっこうよくできていて、稲妻もそうだけれど、きちんと伏線を張って回収している。抽象的な印象を与える戦争のフラッシュバックは、実は戦争の中に本作の出来事の萌芽があったことの伏線になっているし、新造細胞から新造人間が生まれたというのがミスリードになっているのもうまい。上条息子がブライに真実を告げるどんでん返しには素直に驚いてしまったし、同時に納得感もある、気持ちいい伏線回収だった。そういえば冒頭で新造細胞は理論だけと言われていたし、1年経っても実用化の目処は立っていなかったし、新造人間が高度な知性を発揮し流暢な日本語を話すのは映画的な都合かと思ってたけど元々人間だったからか、と思い出すのだ。

ただし、ストーリーの展開の都合や、設定・テーマ性から描きたい描写を優先した結果、唐突な展開や説明不足になっているシーンが多いようにも感じた。
それこそ生命エネルギーが鉄也とルナに集結していく稲妻のくだりも何がどうしてああなってるのか説明がないし(テーマ的にだけは理解できるのだけど)、戦争のシーンはどういう出来事なのかがよくわからない。坂本(寺島進)は現在でも出てきたけれど結局どういうキャラだったのか。その他色々、よくわからなかったシーンがあった気がする。
鉄也とルナが語り合うシーンでは、精神的な交流と現実の実際のやり取りがミックスされて描かれるというなかなか見ない手法が取られて面白かったのだけど、なんの意味があったかはよくわからない。現実の悲惨さが際立つ効果はあったかもしれない。

シン・仮面ライダーとの比較で言うと、ストーリーは個々の作品のものなのでそこは比べないけれど、スッとストーリーが心に入ってくるセリフの自然さや俳優の演技の自然さという意味では、やはりCASSHERNは普通によくできていた。特別優れているかというとそうでもなく普通なのだけど。

他だと、全編に映像加工が施されているのが良かった。CG等の粗が見えにくくなるし、シーンごとに感情的なトーンがわかりやすく伝わってくる。アクションシーンでも外連味が効いて効果的だ。これはこの映画の最も特徴的なところのひとつだと思う。
音楽も中々良かった。基本的に陰鬱なトーンの中、アクションシーンになるとガラッと激しいロック調の音楽に変わるのがアクションの気持ちよさにも寄与していた。

総合すると、なんでクソ映画とかカルト映画とか言われてネタにされてるのか全くよくわからんというのが率直な感想だった。普通によくできていると思うのだけど、陰鬱で抽象的なストーリーがウケなかったのだろうか。ストーリーにはちゃんと一本芯が通っているし、それはクソとかではなく好みの問題ではなかろうか。自分もストーリーはそこまで刺さらなかったのだけど。
ストーリーが好みでなくとも、少なくともこのビジュアルとアクションシーン、演出などは並以上のクオリティがあると思う。

シン・仮面ライダーで受けた傷を治す目的で観たCASSHERNだけれど、似ているところが多ければ痛みが薄まるかと思っていた。でも特に似ていなかったので、むしろ余計にモヤモヤする結果となった。なんで似てるとか言われてんだ……?シン・仮面ライダーの予習にCASSHERN観ろとか、全く関係ないけどなんでそんな風に言われてるんだ……。