ゴジラ-1.0を観た。
いろいろ余裕がなくて、映画を観まくっていた上半期が嘘のように映画を見るのは久しぶりな気がするけれど、これは流石に逃せないということで。

ここまで気合いの入った怪獣映画は大画面IMAXで見るべきか、それともDolby Cinemaとか変わり種のSCREEN Xで見るべきかと思ったけれど、とりあえずでかいのということでグランドシネマサンシャインのIMAXレーザーGTで観てきた。懐が寒い。
上映方式について結論から言うと、IMAXの利点はあまりなかった。もともとアスペクト比がIMAX仕様でないのは承知の上で、それでもスクリーン自体のでかさでIMAXレーザーGTを選んだのだけど、やはりいくらスクリーンがでかくとも縦をスクリーンの半分くらいしか使わないシネスコ画角では大きさの臨場感も半減といったところか。音響面や映像の繊細さの利点はあったと思うのだけど、これなら通常サイズのスクリーンで見てもさして迫力は変わらない気がするので、これから観ようという人にはIMAX以外をオススメしてみる。別に普通の上映方式でもなんら問題なかろうと思うし、Dolby Cinemaの良さがわかる人ならそちらの方が良いと思うし、SCREEN Xも行ったことないけどこの映画には良さそうだ。4DXは個人的には好みではないけれど、この映画には合いそうだ。水ぷしゃされまくりそうな気がするけど。
(これ書いたあとで他人の感想見てたらあんまりDolby Cinemaの良さ出てなかったと言ってたのでうーんどうなんや)

ゴジラは実際のところ全然見た事がなくて、子供の頃に最初に劇場で見たのがスペースゴジラ。次に見たのがデストロイア。でもどちらも記憶が全くない。記憶がある最古のゴジラはエメリッヒ版ゴジラだ。怖かったなあ。色々言われてるけど結構好き。
その後何年も経って、シン・ゴジラと初代ゴジラ、レジェンダリーゴジラ三作を観て現在に至る。どれも面白かった。
何が言いたいのかというと、ゴジラは好きではあるけれども、そこまで熱量や知識があるわけでもない。ゴジラかくあるべしというこだわりも特にない。
なのでまあ、予告編で保証されているゴジラの見せ場がある時点でもう外れはしないだろうという感じで、気構えずに観た。

あっそうだ。山崎貴の映画は観たことないです。なのでその辺なんもわからん。ことごとく観る前から自分に刺さらなそ〜な映画ばかり撮られてたんで……ジュブナイルはちょっと興味あったかな。それくらい。
なので山崎貴にはCGすごい人という印象しかないし、そのCGも、ドラえもんとかDQ5とかの予告編を観るに、CGアニメとしてはあんまり美的感覚が合わなかった。
ただ本作は予告編観て全然大丈夫そうだったのでその点は問題ナシだった。

以下ネタバレあり感想。

ゴジラの見せ場が思った以上に多くて良かった。

最初に大戸島で小型のゴジラが暴れるシーンは、ゴジラが積極的に人を襲うのもあってちょっとエメリッヒ版を彷彿とさせるモンスターパニックといった趣。人に噛み付いて食べるのかと思ったら、人間は好みでないのかポイポイ投げ捨てるのはちょっと面白かった。
この時点でのゴジラは戦闘機の機銃で倒せたのかどうかわからない。

その後ビキニ環礁の核実験でかわいそうに焼かれてしまったゴジラ(本当にかわいそうだった)はめちゃくちゃに巨大化する。観ていて今更ながらにちょっと気になったのだけど、大戸島ってちょっとゴジラが足を伸ばせば行けるくらいビキニ環礁に近いのだろうか。初代からそうなので本当に今更なんだけど。

ちょっと本作で心配だったのが、ゴジラが主に海で戦うことになるのでは?海だと全身もあまり出てこず比較対象も少なく、巨大なスケール感のある映像になりにくいのでは?というところだった。
実際主戦場が海なのは当たっていたのだけど、後者の不安は杞憂だった。背びれを出して海を泳ぐだけでもスケール感があって格好いいし、新生丸で戦う初戦も緊迫感があり、新生丸が小さいことからゴジラの迫力も際立つ。終盤に至ってはほとんど海の上で立ってるので(どうやって浮くどころか立ってるんだ?というのは気にしないでおこう)、ゴジラをまじまじ眺める欲求も満たされた。
高雄の真下から熱線を吐くシーンはめちゃくちゃに格好良かった。海ならではと言える。

熱線についてだけれど、本作の熱線は大爆発を起こしキノコ雲を作る。核爆発を意識しているのは明らかなのだけど、これによって海での熱線は核実験、陸での熱線は原爆投下のメタファーになる。新生丸のそばで起こるキノコ雲は第五福竜丸を連想するし、銀座に降る黒い雨はもちろん原爆投下そのものである。
(ところで書いているうちに新生丸のそばでキノコ雲が起こるシーンがあったかどうか記憶が曖昧になってきた。そばとは言っても高雄なのでそこそこ遠くなのだけど)
本作のゴジラは戦後とあって戦争の影を負った存在なのではという予想もあったが、核実験といいキノコ雲といい今までのゴジラより露骨に核のメタファーとしての存在感を持っていると言ってもいいだろう。
強いて言うなら、大戸島でのゴジラは戦争の暴虐をイメージしていたと思う。
少し話がズレたけれども、この爆発する熱線が格好いい。熱線と言えばシン・ゴジラが東京を焼き尽くす名シーンを思い浮かべるが、あの熱線と比べても負けていない。
熱線の予備動作として背びれがしっぽの先からガシャンガシャン作動して順番に光っていくのも格好良かった。もう海を泳いでる時点で背びれの形だけで格好いいと感じるようになってしまっているので、それがガシャガシャ動くのは追い打ちをくらった気持ちになる。

その他、ゴジラの動きも今までなかったような動きを見せてくれる。今までは可動性の低い着ぐるみか、エメゴジレジェゴジの動物チックなアクションかだったけれど、本作のゴジラは手足が比較的長いせいかやや人間っぽさがある。
感覚的には、可動性の高い着ぐるみを着ているような感じ。体をひねるのも自由自在。
サイズが多少小さいところも動きに説得力がある。もっと大きかったらもっと鈍い動きが似合っていただろう。大戸島の小型ゴジラは巨大化後よりもっと動きが良かったように思うので、サイズと動きの関係性は意識的にやっているのかもしれないし、自分の気のせいかもしれない。

銀座のシーンも期待通りの出来栄えで特に言うことがない。幸せな話だ。当時の建造物が景気よく破壊され、人々は踏み潰される。典子が電車に取り残されるシーンも違和感なく緊張感がある。爆風のシーンも大満足。
ビルの屋上で実況している報道陣は初代のオマージュなのだろうけど、あの時代ってあんなとこから携帯で放送することが可能だったのだろうか。まあ屋上ごと落ちていくシーンは見ごたえがあったのでいいか。
あと敷島が典子を見つけるのがめちゃくちゃ奇跡だなと思ったけど、まあそのくらいの奇跡はいいだろう。この手の群衆シーンのある映画ではしばしばあることだ。

ゴジラ討伐作戦(海神作戦)にあたっては、まず泡で包む作戦がオキシジェンデストロイヤーのオマージュであることは明らかだけれども、てっきり溶かすのかと思ったら沈める案で拍子抜けした。予備作戦はそこから浮かばせるというのだからもっと拍子抜けした。
まあ普通の生き物ならそれで生きてるはずはないけれど……ゴジラに効くのかい?と思ったら普通に突っ込まれまくって「でもこれしかないんだ!」ってなってるのはウケた。でもまあそれでも頑張ってるよね……という苦しい状況もわかるので特にシナリオ上不満ということはなかった。
まあ最終的にゴジラを倒す流れも特に文句はなく、頭を吹き飛ばしたらそりゃ死ぬよなという感じで、いい塩梅だったんじゃないかと思う。

ラスト、典子が生きていたけれど首筋に黒いモヤが残っている、というのはどういう意味なのか。素直に受け取れば被曝で長くないんだろうと思うけれども、それで言うと敷島もめちゃくちゃ被曝してると思うし、それを黒いモヤで表現するか?というのもある。まあ一目で不穏なのがわかるっちゃわかるので効果的かもしれないけれど。
ゴジラも普通にスーパースターマンばりの再生を始めてしまう。
結局のところ、戦争が終わっても試練は終わっていない(それを戦争が終わっていないと言うのかもしれないが)、これからの人生も苦難が続くということで話を落ち着けているのだと思う。
ゴジラが崩れ去って典子が生きていた時はちょっと胸に引っかかりつつもハッピーエンドだからいいのか?と思いつつ、やはり自分の望みとしてはゴジラには死んでほしくない気持ちもあったため、オチとしてはかなり望みどおりだったと思う。
典子が死んだまま明子と二人で行きていくオチも良かったかなと思うけれど、このオチもまた良い。

人間ドラマもあまり文句はなかった。どのキャラも活き活きしていてきちんと映画の中で存在感を発揮している。どんな映画も一人くらいはなんだったんだあいつとなるキャラがいるものだけど、本作ではちょっと思い当たらない。
テーマ的にはキャッチコピーの「生きて、抗え。」が戦争から生き残った者たちにかかってくる感じで、残されたものたちは死者から受け継いだ・託されたものをもって生きていくのだ、というところだろうか。なので敷島は整備兵たちの写真、典子と明子、を引き受けて生きることになるし、後述するようにゴジラ討伐作戦の際には水島が託される側となる。
神木隆之介の演技もめちゃくちゃ良くて大満足。その他の役者も良くて、個人的には特に安藤サクラが、こういう役やらせたら間違いないんだなと思った。安藤サクラは怪物でも若干似た方向性のキャラをやっているのでそれを思い出した。
ゴジラが見たいのに人間ドラマが引っかかりまくって楽しみづらいということもなく、かといってあってなきが如しな薄味でもなくて良かった。

ただ、シナリオ上少しだけ戦争を美化しているように感じなくもないのがちょっと気になった。
基本的にゴジラ討伐に向かうのは戦争帰還者ばかりだ。これは意図的にそうしているものと思うのだけど、ゴジラとの戦いが戦争をイメージしているのは明らかだと思う。敷島に至ってはゴジラを倒して初めて自らの戦争が終わるのだから。
そうすると終盤水島を拒絶する野田と秋津のシーンは、戦争を体験しない世代に出征者が未来を託すというイメージで作られたものではないかと思う。水島が非出征者として設定された理由がここだろう。最終的には水島も強力な助っ人として参戦するのだけれど、そこも燃える反面かすかな違和感を覚えるシーンではあった。お前託されポジだったのに結局参戦しちゃうんかい!まあそれも一つの選択か。
まあどうしても物語上前のめりになるのは仕方ないのだけど、ゴジラとの戦いが戦争のメタファーと考えられる以上、そこで出征者に英雄的な色を感じるようなシナリオだったなとは思う。そこが観ていてちょっと気になった。とはいっても英雄的に描くなと言うと、一体どうせいと言うんだという話ではある。
作戦にあたって全員生きて帰るぞという決意を見せたあとでまるで死出の旅に赴くかのように水島を置いていくものだから、あれ!?とちょっと思ってしまったという話。戦争美化と最初に書いたけどやっぱり違うかな。

もちろん気になったのはそのくらいで、戦争(や当時の国)について批判的な視点の方が多いシナリオであることは付け加えておきたい。
この手の映画で戦争に批判的な価値観を入れ込むと、先日の福田村事件のように、時代背景に似合わず脚本に喋らされているようなキャラが生まれてしまいがちなのだけど、本作はその点かなり良かったと思う。秋津がけっこう体制批判を小言めいて口にするのだけど、当時でもこんな人いたかもなという一定のリアリティがあった(でもお前そんなこと理解してるの時代的にちょっと早くね?とは思った)。
敷島も戦争(ゴジラ戦)で心を病んでいるし、自分だけ生きていることで他人から責められる、自責に苛まれる、という帰還兵の側面をきちんと主要なテーマとして描いている。
第一敗戦してるので肯定的になりようもないというとそれはそうなのだけど、この映画はもう少し積極的に批判しているように見えた。

そうそう、もうあえて言うこともないかと思ったけど、やっぱりCGや美術といったビジュアル面や音楽も大満足だった。ビジュアルはこれができるなら邦画の未来は明るいというか全然ハリウッドと戦えると思ったし、音楽はオリジナル曲も伊福部曲もしっかり要所要所で盛り上げてくれて本当に良かった。
ここが微妙だと全部ぐらつくので、見る前は「予告編の範囲は良かったけど他はどうだ……?」と思っていたところ、サービス満点のシーンたくさんな中で予想以上によく作られてて良かった。

ここまで書いてきて、映画を観ていて気になった点はそこそこあるのだけど、それがあまり映画を楽しむ上で邪魔にならなかったなと思った。
作品を観ていて、細かい点がいちいち気になって楽しみきれないとか作品自体どうでもよくなるとかいうことはあるのだけど、本作は気になったところも流せたというか、瑕疵というより個性として受け入れられた方だと思う。

今度から映画観たら星をつけることにしたのだけど(面白かったのに感想だけ見ると不満ばかりみたいになることがあるので)、星五つ満点で、基本的に星二つ以上は楽しめた判定。
本作は★★★★★(めちゃくちゃ楽しめた)。
感想としては、個人的には気になる瑕疵がない手堅い良作で星四つといったところなのだけど、ゴジラのシーンがとにかく良かったのでゴジラ加点。
今年のマイベスト3はバービーまででもう固まったかと思ってたけど、わからなくなってきたなあ。