あの人が消えたを観た。10月13日、TOHOシネマズ立川立飛にて。

オススメ度★★★★★

めちゃくちゃ面白かった。
日曜日の昼間に時間を持て余してしまったので、本当はCloudとかベイビーわるきゅーれとかを観たかったものの、たまたま時間が合ってて少しでも興味あるのがこれしかなかったという理由で映画をチョイス。結果は大正解。
個人的にはChimeや侍タイムスリッパーに並ぶレベル。なんかここ1ヶ月ちょいで良い邦画たくさん見たな。ラストマイルも間違いなく今年を代表する邦画として頑張ってたし。

今作はライトな作品なので作品の出来が実際どう見えるかは人によると思うし、あくまで自分の好みに刺さっただけな可能性も大いにあるのだけど、個人的な気持ちとしてはとにかく是非とも観てみてほしい。
他の観客の評価を盗み聞きしても「とても面白かった」との声が聞こえたし。若いカップルから。デートにどう?

小説家になろう協賛で、なろう小説投稿者を軸に話が進むので、異世界転生ものというジャンルについて知っておくとベターだと思う。あとできれば令嬢ものも。別に話の本筋に関わる部分ではないのだけど。
簡単にざっくり説明すると、現実世界で死んだ不幸な人が異世界で生まれ直して(あるいは直接召喚されて)、与えられたスキルを使い冒険したりスローライフしたりと幸せにセカンドライフを過ごすのが異世界転生もの。
不幸な目にあっていた令嬢が自らの工夫や機転、そしてイケメンたちの助けによって令嬢として成功していくのが令嬢もの(シンデレラみたいなもん)。その悪役版が悪役令嬢(シンデレラの姉みたいな)。立ち位置が悪者なだけでやることは令嬢ものと同じで、悪役は破滅するという物語上の運命に抗って成功していくという感じ。悪役令嬢もので代表的なのがなろう小説の「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」で、これは異世界転生も混ざっている。
大体こんな理解でそれほど間違ってはいないと思う。

今作、一応標榜されてるジャンルとしてはミステリーなのだけど、あまりジャンルでくくりたくない(観たら多分わかると思う)。トリックもあるのだけど、非常に親切でわかりやすい作りの作品なので安心して引っかかって欲しいと思う。ただごく簡単なありふれたトリックをわかりやすく披露してくるので、見抜けてしまうとだいぶ虚無になる気がする。自分は見抜けませんでした。というか見抜く気もなかったのだけど。だから観る人は見抜こうとせずに観てほしい。伏線も細かすぎるものはない(と思う)のでいちいち気にしなくていい。
作中のトーンが一貫していない部分が多いので、絶えず楽しめるというわけではないし人を選ぶと思うのだけど、最後まで見て全て許せるかどうかがこの映画の評価を分ける気がする。

以下ネタバレ。

上の続きだけど、個人的にはめちゃくちゃ許してしまったし、オチとエンドクレジットが好きすぎてもう許すを通り越してボロ泣き。劇場を出ても涙が止まらなかったレベル。
泣いたという感想すらネタバレになる気もしてわざわざネタバレ分けした。どちらかというとこれは単に自分の特定のツボに刺さったというだけかもしれない。

というわけで、ざっくり言うとカメ止めをもうひとひねりしたような作品だなと思った。叙述トリックが多い。
一章で主人公紹介、二章で今作はミステリーと見せかけて、三章コメディで騙して、やっぱり四章ミステリー、さらにもうひとひねり。章分けにわかりやすい意味があるうえ、章タイトルを全て嘘の謎解き説明にも使う。親切〜。

しかし良くも悪くも映画の本番が四章なので、主人公紹介の一章はまだしも、二章と三章は人によっては退屈に感じるかもしれない。
二章と三章はカメ止めで言う前半後半に当たる。
二章は不審そうな出来事が起こるだけで最後まで根拠がほとんど丸子の想像なのもあり、話があまり前に進んだ感じが出ない。丸子のやってることもけっこう危うくて少しストレスを感じる。個人的にはそういうのも合わせてそこそこ楽しめたところではある。ただカメ止めの前半が退屈だったように、伏線撒きに徹した二章を退屈な人もいるとは思う。
三章は二章の伏線回収を非現実的なドタバタコメディの解説で進めていく。Personal Trainerとか、そういうギャグで笑えるならいいのだけど、ノリにあまりピンと来ないと、ミステリーを見に来たのに何を見せられてるんだという感じになりかねない。実際自分はそんな感じになり、「ああハイハイなるほどこういうコメディね……よし頭を切り替えるか……」と姿勢を修正するまでけっこうかかった。切り替えればまあそこそこ楽しめたのだけど、けっこうアクの強いコメディパートだったとは思う。
いくら叙述トリックと伏線回収が決まっても、カメ止めで後半がスベッてたらあれほど評価はされなかっただろう。その点でこの映画は途中離席されかねないかなり危うい橋を渡ったなあと思う。しかし実際、コメディで細かく伏線回収されていくおかしみも確かにあった。

そしてせっかく切り替えたら四章でナイフ。まあさすがに、全て嘘、でナイフを見せられたら、それまでのコメディ全てが嘘だと納得するほかないので、再度の修正にはさほど時間はかからなかった。結局二章での想像がだいたい事実だったのだ。
なので実際には一章二章四章だけにしておけば、作品のトーンがブレることもなく普通の凡庸なミステリーになったと思う。
しかし、観客を二回騙すためだけに三章が配置されており、それにある種カメ止め後半的な伏線回収パートを偽装させている。そうなると、叙述トリックにありがちだけれど、騙されてた時間は何なの?と思わなくもない。叙述トリックでなくとも、主人公が騙されるなり勘違いなりで無意味に右往左往するのを何十分と見せられる作品はあるだろう。そこをコメディにすることで、代わりに笑いを提供するだけでなく、ジャンルでも観客を騙すことにつなげている。

騙されたおしてどんでん返しに驚くのも楽しかったのだけど、ストーリーとしては、誰かに必要とされ感謝されたかったという丸子の素朴な願いが悲しい形で叶えられる、というオチはしんみり泣けるものがあった。あったけれど、その後スパイ転生の世界に転生するという異世界転生もの冒頭につなげてしまうのはさらに涙腺に来てしまった。すまん、俺は令嬢ものを読んでる時もそうなんだけど、幸せな展開を見ると涙腺が緩むんだ。丸子良かったねえ!!報われたねえ!!
そこからの二次元イラスト化、エンドクレジットでイラスト連発の流れでドカドカ泣いてしまった。スパイ転生のコミカライズを読ませてくれ!!!!
どんでん返しだけならそこまで評価を上げなかったのだけど、ここまで泣かされたら最高評価にせざるを得ない。これはもう感情の問題。

異世界転生もの冒頭はともすればトラックがドーン!の1ページで終わらせられるものですらあり、生前の不幸が掘り下げられることもさほどないのだけど、今作は異世界転生もの冒頭だけでまるまる一本作ってしまったようなもの。構成の比重が逆になっているという意味で、今作は「逆」異世界転生ものと言えるかもしれない。なろう協賛なだけはあるなと思った。

あと、観ている最中は、丸子が好んでいるし転生者が男スパイだしでスパイ転生は男性向けの作品なんだと思っていたけれど、ラストを見ると絵柄が明らかに女性向けだし、カットも悪役令嬢が結構フィーチャーされている。
これって、悪役令嬢がイケメンスパイと協力して破滅フラグを折っていく悪役令嬢ものなのでは……。主役がイケメン転生スパイ側なだけで。
丸子、お前これにハマってたんか!なんかこう……気が合う気がするぞ!

というわけで、こうして感想を書いてみると、どんでん返しも楽しかったけれど、やはりオチが自分に突き刺さりまくったんだなとわかった。
いやー、エンドクレジットをまた見たい。コミカライズ欲しい。
大満足でした。