Cloudを観た。10月14日、立川シネマシティにて。

オススメ度★★★☆☆

ダレ気味だったけど面白かった。
転売屋の主人公がどことなく不穏な状況に置かれてたり、追い詰められていくシーンなどは、さすが黒沢清監督と言うだけあって、イヤ〜な雰囲気が画作りから何からにじみ出ていてとても良かった。そのパートを退屈と感じる人もいるかもしれないが、個人的にはこの嫌な雰囲気が満ちているうちは緊張感があって全く退屈しなかった。
この感じは先日見た黒沢清監督の傑作Chimeにもあって、とにかく映像や音、出来事全てで不穏や緊張感が積み重なっていって怖さの予感になり、緊張感が持続し、怖い出来事が余計に怖くなるという良さがある。

予告編は見てはいたのだけど内容をほぼ忘れていたため、思ってたジャンルと少し違うな……?となった。ただ逆に忘れていたために、緊張感を持って映画を観られた面もあるかもしれない。そういう展開になるんでしょ、という予測を抜きにして、どうなるか分からないという状態になったから。
そういう展開の部分は個人的には結構ダレたかな〜と思う。

そういえば、今作にも登場している吉岡睦雄氏は最近観た映画だとChime主演の他にも化け猫あんずちゃんにも出演していて、今年観た映画で3作も目にしたことになる。あんまり同じ人を何度も見るということもないのでちょっと面白い。

以下ネタバレあり。

というわけで、最終的にはネットの悪意が吉井に向けられて、集まった有志から吉井が逃げることになるのだけど、ここでの有志がめちゃくちゃキャラが立っているだけに、コミカルに感じてしまって緊張感が薄れダレてしまった感じはある。
銃撃戦も小気味がいいアクションという感じではなかったし。まあこの作品でバリバリのアクションされてもそれはそれでちょっと困ってしまうかもだけど。

とはいえ、主人公も大概だけどなんか嫌な奴らだな〜と思っていた面々が続々現れてくるのは、やっぱ嫌な奴らだったな〜!という納得感から来る爽快感みたいなものもあった。滝本はそこまでだとは思ってなかったけど!
秋子もめちゃくちゃムカつくな〜と思ってたので最後の展開にはスッキリ。
登場人物全員悪人といった雰囲気で下手に感情移入させない作りなのは良かった。
ネットの悪意の割に吉井の知り合いが多いなと言うのは、結局現実でもそんなもんな気がする。本当に全くの他人というより、ある程度身近な人間からの悪意がネットに表出する面もあるだろう。

佐野がなぜ吉井にそんなに入れ込むのかがよくわからなかったのだけど、金儲けの才能に目をつけたのか、クソデカ感情を抱いているのか、個人的には後者と解釈して観ていた。こいつ……吉井のこと好きすぎ!?
そういや物投げ込んだ若者を何故か佐野が捕まえてたのってそういうことだったのか。

「なんの努力もせずに……」とか言われているものの、転売屋の吉井が転売屋として割と普通に頑張って働いているように見えるのはこの映画の欠点なのかもしれない。
転売屋って業者に直接出向いて行って交渉して買い占めたりするものなのか?冒頭の治療器なんかは自分で売ろうとせずに転売屋に売る方が変だと思うし、完全に不良在庫化しているのを吉井が引き受けているだけに見えるので、復讐に来たのが完全に筋違いに見えた。JK刀なんかは吉井も無理があるけど並んでる客をガン無視して吉井に売る店の方も最悪だし。
もっとこう、吉井の被害にあった人間が具体的に出てくると良かった。ニセブランドバッグを売り捌いたのは(転売屋だから悪いという問題では無いけれど)吉井が明確に悪いことをしているという面で良かったものの、ちょっと物足りない。

なんというか、これはネットの転売屋叩きにも言えるのだけど、現実でも転売屋がやってる事を具体的に否定しづらいのが上述の欠点を作っているように思う。やってる事は単純化して言えば単に仕入れて売るという商売の基本だし、それが流通の末端を堰き止めて不当に価格を吊り上げているだけなのがはた迷惑なのだけど、個々の転売屋がその状況を作っている訳でもない、品薄現象の一環とも言える。十分な在庫や対策があれば転売屋が問題にならない(いわゆる転売屋ざまあ)のは周知のとおりだ。昔よりもネットの発達で転売が容易になったために、品薄現象が加速しているということだろう。
もちろん作中のJK刀のように単一の転売屋が全て買い占めて高く転売するという状況では明らかにその転売屋も悪いのだけど、上述のとおり転売屋に全部売る方が個人的にはどうかと思う。それなら初めから自分で高く売れよとなるので、現実にはそういうことはほとんどないとは思うけれど。
なので具体的に否定できるチケット転売なんかは作中でもしっかりしょっぴかれている。チケットはそもそも転売が禁止されているので(興行主が禁止しているものに限るけれど)。しかしチケット以外の一般製品を転売禁止にするのは難しいだろう。チケットは容易に価格が吊り上がるが、一般製品はそうとは限らない。

まあ転売屋問題一般について語るつもりもないのだけど、とにかくどうも転売屋という設定が直接的な被害者の存在を見えづらくしているのが(直接的な被害者に相当するものっているのか?)、ちょっとひっかかりを感じるところではある。
ただ、この作品のテーマの一つとして転売屋VSネットの悪意みたいな構図にもなっているので、被害者を見せつけて転売屋を一方的な悪者にするのも物語上どうかというところなのかもしれない。ネットの悪意に正当性が持たせられすぎるとそれはまた違うので。
何にせよ結果として吉井は全ての人間から敵意を向けられ、最終的に闇社会に足を踏み入れてしまう(地獄の入り口)ことが示唆されているので、そういう意味である種の報いになっていると思う。転売屋をいわゆるゲートウェイドラッグみたいな闇社会への導入として描くなら、吉井を完全な悪人として描ききらないのも割と納得がいく。
ただそれはそれとして作中の転売屋ってなんなんだという疑問は残るのだけど。

(追記:監督のインタビュー動画を見たのだけど、どうやら監督も別に転売屋を否定するような意図がないというか、まさに仕入れて売るという商売の基本の延長、なんなら儲けのために頑張っていると見ているようなので、上述したようなところは既に織り込み済みで転売屋を悪人一辺倒として描くという方向には向かっていないのだと思う。であれば上述のように転売屋が転売屋として頑張っているように見えるのは欠点でもなんでもない。それは見ているこちらが「転売屋をもっと悪人として描くべき」というある種のバイアスを通して映画を見ていただけに過ぎないからだ。)

総合してけっこう面白かった。引っかかりも多くちょっと退屈な面もあったので、最近観た映画だとジョーカー2と同じくらいかちょっと上くらいかな。個人的なオモシロ度は。(ジョーカー2は歌がね……)