リバー、流れないでよを6月25日(日)に観た。あまりこの手のスケールの映画は観ないのだけど、2分のタイムループというアイデアがとにかく面白くて、観ることにした。
2分の繰り返しで何ができるんだ!?ストーリーを紡げるのか!?という疑問がそのまま観る動機になる。
ちなみにヨーロッパ企画の作品は名前こそよく聞くものの自分自身は一度も見た事がないので、そういう意味でもちょっと楽しみだった。
そんなわけで簡単にネタバレあり感想を書いてみる。
初めはネタバレなし感想。
2分ループというワンアイデアでひたすら回すという感じで面白かった。
ループ中はとにかく2分間をワンカットで回し続けるので、ワンカット2分間ずっと演技し続ける役者の凄さみたいなものも感じる。観ていてその一芸に感心しきりだった。
また、ストーリーの時間感覚がリアルタイムと一致しているので、逆に言うと時間を操作して作品のリズムを弄るということが出来ない制約の中で、飽きないように不自然にならないようにストーリーの起伏を作るというのもすごく良くできていた。
で、まあつまるところこれって映画で舞台演劇をやっているようなものなんだと思う。舞台の上では場面転換が起こるまでワンカットで演じ続けることになり、そのワンカットの中で起こるドタバタの中に面白さがある。要するに2分間ごとに場面転換が起こる舞台のような感じだ。
そう思って観れば役者の演技の方向性もコメディ系の演劇を観ているかのようだ。ラストに出てくる小道具?も舞台セットみたいな質感だ。
鑑賞中の早い段階で「あ、これ舞台だな」とわかったので、そういう風なバイアスをかけながら観ていた。そのバイアスがないと前述の小道具?が出てきた時にがっかりしたかもしれない。
なので、前述のとおりワンカットの演技に感心したりストーリーの構成に感心したりしたけれど、もともと舞台が主戦場のヨーロッパ企画からすればお手の物だったのかもしれない。
思えば、イニャリトゥ監督のバードマンなんかは全編ワンカット風の撮影でアカデミー賞を取ったけれど、あれは舞台演劇の話だった。そういうことだったのか。ひょっとして。
ただしいくら2分ループが舞台っぽく見えるからといっても、このアイデアは舞台では実現できない。場面転換のたびに初期位置に戻ってそこから限られた時間で行動しなければならない面白さは舞台では演出できないと思うし、2分という絶妙な細かさだから面白いのだけど、舞台でやるには2分は短すぎると思う。仮に2分ごとに暗転して初期位置に戻っていたら、見てる側としてはけっこうタルくなりそうなものだ。
まあ、寡聞にして知らないだけで、舞台が先にあったりしたらごめんなさいなのだけど……。ヨーロッパ企画だと、確か曲がれ!スプーンとかは舞台劇が先にあってその後映画化してた気がする。
曲がれ!スプーンと言えば舞台音楽が元たまの滝本晃司さんだったのだけど、今作の音楽聴いてて滝本さんっぽいなあと思っていたら、やっぱり滝本さんだった。滝本さん、映画の音楽は初めてなのでは?違ったらごめん。
以下ネタバレあり。
まあ、ごく序盤でわかるのでこれはネタバレになるのかわからないのだけど、主人公(ミコト)以外も一帯の人全員がループを認知して記憶を引き継いでいるというのが意外だったのでまず驚いた。なんかてっきり主人公だけかと思っていた。
なのでミコトがアクションを起こさなくともそれぞれがそれぞれ勝手に動いて事態が混沌とする。ループものとなると同じ場面を繰り返すようなイメージになるのだけど、この映画では初期位置が同じだけで、同じ場面は全然存在しない。ループといえば繰り返すもの、ループものは繰り返しを扱う作品、という先入観にとらわれないつくりになっている。
ループをしても大部分はリセットされず、人間関係もそのまま続く、という点が作中のひとつのトラブルのもとになるのだけど、ここからわかることは、この映画のストーリーはループ自体ではなく、(ループという)閉鎖空間に閉じ込められたことを起点として作劇されているんじゃないかということ。
ループは、初期位置を固定していたり行動時間に制限があったり雑炊が減らなかったり障子を破っても元通りになったりループするのをいいことに人が死んでしまったり……という、小道具的な使われ方に終始しているように思う。ループによってストーリーの展開が変わるような重大な事件が起こることはなく(まあ人は死ぬけど)、人々の行動を変容させてストーリーを駆動しているのはそれぞれのコミュニケーションである。ループの原因探しも理詰めで行われるようなことはなく、それぞれの思い違いや勘違いでただ右往左往したあげく、ラストになってあっさりと故障したタイムマシンが見つかって解決する。
閉じ込められモノとして考えると、たとえば閉鎖空間が難破船なんかだと、最終的には船が沈むなりして人々の行動が変容するわけだけれども、今作だとやはりそれぞれがループに対してどう考えてどう動くかの違いがストーリーを動かしていて、ループ空間自体がどうこうなるということはない。
ループギミックを活かしたドタバタを見ているだけでも楽しいのだけど、さすがにストーリーの落とし所が要るからか、中盤以降はミコトの「自分がループの原因だ」という告白から、ミコトの恋路にストーリーの焦点が移る。タクとループを活かした逃避行をしたりしながら二人の関係性が煮詰まっていくのは見ていてホッコリするのだけど、若干前フリが弱かったので唐突に見えてしまったかなと思う。タクの存在、ガチで忘れかけていたし、いきなり恋路全開になるので急にラブストーリー!?って驚いてしまった。
結局誰もが時が止まることを内心求めていて、それでも時を動かして前に進まなければならない、そのジレンマの中で起きたちょっとした奇跡としての2分ループの中で、自他を見つめ、明日に進むエネルギーを得る、という感じで、キレイにまとまったお話だなと思う。
思うのだけど、どうしてもドタバタの方が面白すぎてお話の軸が薄れ気味になったような気もする。コメディとしてはむしろこれがいい塩梅なのかもしれない(コメディ見慣れてないもので……)。
そういえば、天気が細かく変わるのが面白かったというか、明らかに合成とかではない本物の雪景色と普通の晴れの景色が入りまじるので、どうやって撮ったのかとめちゃくちゃ気になった。かなり長い期間で何回にも分けて撮った結果景色が入りまじったのだろうか。だとするとそれぞれのカットを相当順不同に撮ったのだろうか
ストーリー的には世界線が微妙に違うとか言ってたけど、そのセリフ自体に設定的な意味はないんだろうと思う。