いわゆるアバター2ですね。23日に丸の内ピカデリーのドルビーシネマで見てきました。
すずめの戸締まりも前日に見たんだけどそれは後日……。

まずはネタバレ不要な部分、つまり映像体験ですね。
他映画よりはるかに3Dが凝っている(というか3D前提の絵作り)のと、高フレームレート(HFR)のシーンが多くて、ドキュメンタリーorアトラクション感がすごい。この3D×HFRの相乗効果が今作品の見どころ。
HFRっていうのは、要するに時間当たりのコマ数が多くてヌルヌル動くってことです。電気屋のテレビの店頭映像とかでHFRのヌルヌル映像を見た事ある人は多いんじゃないでしょうか。大自然ドキュメンタリーなんかでよく使われますね。あと前に、HFR調整されたのかヌルヌルになってるターミネーター2を見たことがあります。
そういうのを見たことがある人ならわかると思いますが、HFR時はよく言えば現実感がすごくて美麗です。この現実感の高さが、ドキュメンタリーやアトラクションに近い印象を与えてくるんですね。一方、非現実感が薄れ迫力に欠け演出が締まらないという印象も与えます。これはトレードオフですね。
このHFRとアバターの別格3Dがかけ合わさると、たしかにすごい映像になっていました。映像体験の感覚としてはVRに近いです。自分はValve IndexでHalf-Life Alyxを多分クリア寸前のところまで進めて積んでるんですが、あそこまでの現実感とはいかずとも、VRを遥かに上回る映像美でそれに近いvirtualな感覚を提供してくれています。ちなみにvirtualって仮想とよく訳されるのでニセモノ感がありますが、ニュアンス的には「実質的」みたいな感じでホンモノ感が強いらしいですね。まさにそんな感じです。
ただ、シーンごとにFRが頻繁に変わるのでその度に違和感があるのが没入感の観点からマイナスではありました。どうせならHFRで統一して欲しかったんですが、そこはいいとこ取りを狙ったのか、何かの事情で無理だったのか。
3Dは画面の枠を超えてこちらに飛び出してくるようなシーンがそこそこあったのが好印象。画面の中に3枚くらい奥行きの違う平面的レイヤーがあるだけみたいなやる気のない3Dとは別物です。3Dはやっぱり飛び出さないと(もちろんアバター2は奥行きも別格ですが)。ただ現実感が強い分、先端恐怖症みたいな人にはきついかもしれませんね(銃撃の閃光が飛び出してくるシーンとか怖さがありました)。
特に良いと思ったのはコックピットの中のシーン。コックピットの窓から外を見る質感がすごいことになっています。使い込んだ機体のはずなのになんか窓が不自然にピカピカ新品のようにも見えましたが、見た目のキレイさを優先させたんでしょう。
観るなら3DかつHFRの環境で観るのをオススメします。HFR対応の映画館が日本にどれだけあるのかは知りませんが……。

また、ウェイオブウォーターというだけあって、水の表現は素晴らしく、水面や波の描写は本当に実写さながらです。実写なのか?
水面から半分だけカメラを出して映してるシーンがあるんですが、そこも他の映画では見た事ない質感でしたね。

あとストーリーですが、思った以上に前作視聴前提のストーリーなので前作予習はしておいて下さい。

じゃあ以下話のネタバレ……まあ警戒するほど大した話ではないですが……。

ストーリーですが、正直なところ観ていて疲れました。息もつかせぬ展開というわけではなく、シンプルにアバターの世界って嫌なんですよね。
ナヴィの社会は堅苦しく息苦しいし、スカイピープルはスカイピープルで軍隊軍人しか出てこない(前作では気のいいやつもいたんですが)。ジェイクたちは5本指で悪魔の血を引くものとして疎まれるし(そういや長男だけ4本指な気がする)、スパイダーはスカイピープルとしてネイティリからすら疎まれる。
クオリッチ大佐にスパイダーをさらわれ、サリー一家はオマティカヤ族を離れ逃亡することになり、身を寄せたメトカイナ族では疎まれながら馴染む努力をする(メトカイナ族に厄介事を持ってきてるだけじゃん)。
世界は美しいけれど出来事は嫌な事だらけだし好きになれるキャラもほとんどいない。

特にこの映画、母親の役回りがだいたい良くない。ネイティリもロナルも感情的・ヒステリック気味な性格で闘争心が強く、自他を顧みずしばしば夫から諭される。トゥルクン(鯨)の母親は母親の弱みを突かれて殺されます。まあトゥルクンの方は置いておいても、族長夫婦がどちらも冷静な夫と感情的な妻というステレオタイプなのはちょっと違和感の強いところです。ネイティリに至っては家族同然であったスパイダーを(ネイティリ自身はそう思っていないのは序盤に説明されますが)人質にとり傷付けるわけで、観客からしてみるとオイオイオイと思うところでそれ自体は狙い通りだとは思うんですが、損な役回りを妻ばかりが負っている気がします。せめてメトカイナ族長夫婦は変えても良かったのでは。

中盤以降、次男のロアクとトゥルクンのパヤカンとの交流が始まると、その二人(一人と一体)だけはなんとなく微笑ましく観られるようになりました。というのもこの疎外されたもの同士のロアクとパヤカンの関係性だけがナヴィの社会から外れていて開放感があるんですよね。なので終盤の、捕鯨船へのパヤカンの逆襲は爽快ではありました。一度敗北して相手のやり口をよく知っているという伏線もありますし、嫌われ者が活躍してみせる展開は王道です。

リコンビナントとして復活したクオリッチ大佐とスパイダーのアイデンティティや関係性は複雑で面白いんですが、突っ込んだ描写が少なめで、次回作への引き程度の要素でした。このあたりを掘り下げるであろう次回作以降はややストーリーに期待できるかもとは思いましたが、どうなんでしょう。

これに限らず今作は続編を前提とした設定や描写が多く、意外でした。五部作くらいのつもりとは聞いていましたが、それぞれで話はある程度決着するのかなと思いきや、露骨に未解決部分を残してくるやん……といった感じ。
キリの(恐らくエイワと繋がる)謎能力もなんの説明もないわりに大活躍させる。出生の秘密も説明なし。3以降で明らかにするつもりなんでしょう。他の人の感想見て気付いたんですが、恐らくは1でエイワを通してグレイスをアバターに移そうとして間に合わず失敗した時に発生した子供なんでしょう。グレイスとエイワの子供みたいなもので、だからエイワと繋がれるという。
ジェイクとクオリッチ大佐が今後どうなるのかわかりませんが、スターウォーズEP7〜9みたいな感じで、ゆくゆくは下世代に主役が移り、ロアク&キリVSスパイダーみたいなこじれ方・対立をすることになるんでしょうか。
正直そこまで掘り下げるような魅力的な世界観・設定ではない気がするんですが、まあ続ければなにか生まれるかもしれません。とりあえずナヴィをもう少しいいやつらにしてくれないかなあ。

全体的には、ストーリーのテーマのひとつとして家族を打ち出していますが、どうも家族観が古臭い。ナヴィの因習自体が古臭いので家族観が古臭いのも当たり前なのかもしれませんが、何にしてもサリー家は観ていて気持ちのいい家族ではないです。一致団結がサリー家の合言葉だったと思いますが、なんか歪なものを無理矢理押し固めるような、気持ちの悪い言葉の使い方だった気がします。
2022年にお出しする映画としてこの価値観はどうなのというのが結構目に付くところではあります。

見ている時は気が付かなかったんですが、どうやら反捕鯨映画でもあるようで、たしかにトゥルクンは鯨だし、捕鯨船の銛発射装置には日本の会社っぽいロゴがありました。
そういう観点で見るとトゥルクンを字幕で喋らせるのは鯨の知性表現としてなかなか工夫がない描写でしたね。というか観ていてなんでナヴィと何も繋げずに意思疎通できてるのかわかんなくて戸惑いました。

捕鯨船を仮想敵にしたがために、今回の敵は前作と比べてスケールダウンしてしまったのだろうかとも思います。パヤカンが逆襲するシーン以外はなんだかパッとしません。迫力がないのはHFRのせいかとも思いましたが、そもそも戦闘のスケールが小さいことに原因があるのかもしれません。
今作のスカイピープルは入植を重視していて侵略にそこまで重きを置いていないことが描写されていますが、今後の作品ではどうなるんでしょうか。ジェイクも今後は入植妨害のゲリラ活動はできないでしょうし。そうなると戦闘のスケールが小さくなる一方な気がしますが……。

そんな感じでした。